Artist/
Potter

Motohara
Reico

Artist/Potter

Motohara Reico

note

2007

「存在するものしか存在しない」

土という素材を使うことで知ることがある。
今、目の前にあるそれは、乾燥から1250℃という高熱を経て冷却という独特の試練をくぐり、
ここに存在し得たという事実。

自分でも不思議に思うことがある。
制作途中の作品が窯に入る前に破損すると、私は泣く。みっともないほどに。
これから待ち受ける試練を前にその機会すら与えられなかったという悲しみ。
しかし、一度焼けたものが割れてしまったとき、私は平気だ。
「そういう運命」と思う。

窯から出てくるまで、私には祈りのようなものがある。
「どうか無事に火をくぐり、この目の前に現れて。」
存在し得たという事実は何にも代え難い喜びであり、
その先が突然絶たれることも、何百年も存在し続ける可能性もどちらも持っていて、
それはもう、私の力の及ぶところではない。

新しい朝を迎えるたびに、人間の営みが新たな目標とともに始まる。
その先を委ねることができない私たちはあらゆる可能性を想定して
まだ起きていない事実を操作しようとする。
こうして目を閉じている間にも無数の記しが打ち立てられていく。

私にできることと言えば、毎日コツコツ心の襞を織り続けること。

目覚めたら、同じようにまたこの世界が目の前に続いていると皆、信じて疑わない。
でも毎日おんなじ繰り返しがつまらないなんて言わないで。
角を曲がると突然、あたらしい世界が拓けるなんて願わないで。

この世界が無数の小さな震え、それは命とか祈りによって輝きを放っているのなら、
ほんの少し自分をはみ出して、存在し得た他のものたちが明日を無事に迎えられるよう、
祈ることができますように。
はみ出せば、そこにもう1つ外側があることもわかっているけれど。

私の作品は、はっきりと記される言葉と言葉をつなぐ、息継ぎのようなものだと思っています。仕事場からの帰宅途中、真っ赤な夕陽を背に黒々とした山並みが見える。あぁ、この麓に育ったなら、そこに神がいると私は信じたにちがいない。生まれ育ったのは、製紙の街。モクモクと白煙を放つ煙突が役割を全うしているようで、わたしにはカッコよかった。人間の役に立つある仕事を指して機能というが、そのためだけに在るコト、それ以外は削ぎ落としているという事実が何だか羨ましかったのだろうか。たとえ、役割を果たさなくなったとしても、各々のモノが重ねた時や経験に私はかなわない。なにか確固として記されるべき出来事より、日々に埋もれて、じっとそこに在り続けるモノ達の方が饒舌な沈黙を抱えていると、わたしは思う。2007.02.23